Research

低出生体重児の脳障害に関する研究

低出生体重(2500g未満)の子どもは、発達障害(注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害など)や脳性麻痺など、様々な脳障害を来す可能性が高いことが知られています。現在の日本では、全出生児のうち10%近くが低出生体重児です。低出生体重の原因はさまざまですが、子宮内低灌流(血液の流れが少ないこと)と子宮内感染・炎症が二大原因です。妊婦の痩せ(やせ)も原因の一つです。

当研究室では、子宮内低灌流モデル動物を独自に開発しました。このモデル動物は、低出生体重で生まれ、その後に多動を示します。このモデル動物を用いて、1)子宮内低還流から低出生体重、さらに発達障害となる機序の解明、2)予防法・治療法の開発、を目指して研究を行なっています。

低出生体重児の脳障害の機序解明

子宮内低灌流ー低出生体重モデル動物を用いて、脳内の代謝、という観点から機序解明を行なっています。脳内のエネルギー代謝経路や低分子代謝産物(神経伝達物質などを含む)の変化を調べています。

大阪市立大学人工光合成センターの藤井律子准教授との共同研究で、イメージング質量分析の手法を用いて、脳内代謝産物の変化を可視化して検討を行なっています。

東京理科大学研究推進機構総合研究院の梅澤雅和研究員との共同研究で、顕微赤外スペクロトメトリーや赤外蛍光イメージング等の新技術を利用して、脳内タンパク質や血管の解析を行なっています。

フランスCNRS(国立科学研究センター)およびAix-Marseille大学のJacques-Olivier Coq 上級研究員との共同研究で、脳や脊髄の電気生理学的な変化を検討しています。

スイスGenève大学病院小児科のStéphane Sizonenko准教授との共同研究で、MRI/MRスペクトロスコピーを用いて脳内微細構造の変化を検討しています。

低出生体重児の脳障害に対する予防法・治療法開発

栄養素や腸内細菌、幹細胞を用いた予防法・治療法の効果・安全性を、モデル動物によって検証しています。

東京大学医科学研究所 長村登紀子准教授からヒト臍帯由来間葉系細胞の提供を受けて、その効果を検証しています。

人を対象とした食事・栄養に関する臨床研究

京都大学病院、京都第一赤十字病院、国立循環器病研究センターと共同で、神経疾患と食事との関連の研究を開始しました。

新生児脳症に対する細胞治療法の開発

新生児低酸素性虚血性脳症および新生児脳梗塞は、出生前後に突発的に起こり、脳性麻痺や精神遅滞などの障害を残す可能性の高い疾患です。それらの疾患モデルラット・マウスを用いて、細胞治療の開発研究に取り組んでいます。

モデル動物においてヒト臍帯血造血幹細胞/血管内皮前駆細胞(CD34陽性細胞)静脈内投与が、新生仔脳障害を軽減することを確認した後、新生児低酸素性虚血性脳症の赤ちゃんを対象とした臨床研究を開始しました。これは大阪市立大学小児科の新宅治夫特任教授を代表とする多施設共同研究で、最近、第1相試験を終了し、安全性を確認しました。現在、さらに症例数を増やした比較対照試験である第2相試験の開始に向けて準備中です。

名古屋大学総合周産期母子医療センターの佐藤義朗講師らと共同で、新生児低酸素性虚血性に対するMuse細胞静脈内投与による治療の前臨床試験を行なっています。